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札幌地方裁判所 平成3年(わ)217号 判決

本店所在地

札幌市中央区南五条西五丁目二〇番地

京和商事株式会社

右代表者代表取締役

祖母井京二

本籍

札幌市中央区南一三条西一三丁目九四一番地五三

住居

同市中央区南一三条西一三丁目二番二〇号

会社役員

祖母井京二

昭和六年二月二一日生

本籍

東京都世田谷区砧五丁目八番

住居

札幌市中央区南一二条西一四丁目一番二二号

会社役員

浦岡惇三

昭和一六年八月六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官廣部眞行出席、弁護人日浦力、同佐藤文彦(被告人祖母井、同浦岡関係)各出頭のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人京和商事株式会社を罰金二五〇〇万円に、被告人祖母井京二を懲役一年に、被告人浦岡惇三を懲役八月に処する。

被告人祖母井京二及び被告人浦岡惇三に対し、この裁判確定の日から各三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人京和商事株式会社(以下「被告会社」という。昭和六二年九月一日付変更前の商号は、動産商事株式会社)は、肩書地に本店を置き、不動産の売買、斡旋、管理等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人祖母井京二は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているもの、被告人浦岡淳三は、有限会社東武総合商事(以下「東武総合商事」という。)の代表取締役として登記されているものである。

第一  被告人祖母井及び同浦岡は、共謀のうえ、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、被告会社の所有する飲食店ビルについて、東武総合商事等が内装工事などを行っていないのに、これを行ったように仮装して架空の支払を計上する方法、あるいは、被告会社が行った不動産の売却に東武総合商事が介在したように仮装して売却益を圧縮する方法により所得を秘匿したうえ、昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五二八四万五八〇〇円あったのにかかわらず、昭和六三年二月二九日、札幌市中央区大通西一〇丁目所在の所轄札幌中税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二一六三万二七一四円でこれに対する法人税額が八〇一万七六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同日を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額八一六六万四三〇〇円と右申告税額との差額七三六四万六七〇〇円を免れた。

第二  被告人祖母井及び同浦岡は、共謀のうえ、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、被告会社が行った不動産の売却に東武総合商事が介在したように仮装して売却益を圧縮する方法により所得を秘匿したうえ、昭和六三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三〇三四万二二六四円あったのにかかわらず、平成元年二月二八日、前記札幌中税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が六五三万〇五三〇円でこれに対する法人税額が零円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同日を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二一七一万六三〇〇円と右申告税額との差額二一七一万六三〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告会社代表取締役兼被告人祖母井及び被告人浦岡の当公判廷における各供述

判示冒頭の事実について

一  札幌法務局登記官認証の各商業登記簿謄本

判示第一及び第二の各事実について

一  被告人祖母井の検察官に対する平成三年三月二〇日付(一二枚綴りのもの)、同月二二日付(四六枚綴りのもの)及び同月二五日付(六枚綴りのもの)各供述調書

一  被告人浦岡の検察官に対する同月一九日及び同月二〇日付(一〇枚綴りのもの)各供述調書

一  金田富喜次、大森利章、松本勇、桐木盛人及び祖母井瑞恵の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官佐々木盛一作成の旅費交通費調査書、租税公課調査書、受取利息調査書及び事業税認定損調査書

一  大蔵事務官坂口昭憲作成の交際費調査書、固定資産売却益調査書、仲介手数料調査書及び交際費の損金不算入額調査書

一  検察事務官作成の同月一五日付及び同月一六日付各捜査報告書

一  押収してある法人税決議書一綴(平成三年押第九九号の一)

判示第一の事実について

一  被告人祖母井の検察官に対する平成三年三月一八日及び同月一九日付各供述調書

一  被告人浦岡の検察官に対する同月一八日供述調書

一  西尾清数、松永隆吉、小山勝、開地秀明、小原輝雄、小山内町子、上田智津子、谷口清一、安栄猛、小林イチ子、納田徹、本間八重子、玄藤久雄、中村栄一及び石川雅子の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官坂口昭憲作成の仕入高調査書

一  検察官作成の捜査報告書(昭和六二年一二月期の架空仕入について)

判示第二の事実について

一  被告人祖母井の検察官に対する平成三年三月二〇日付供述調書(四五枚綴りのもの)

一  平井久美子の検察官に対する供述調書

(法令の適用)

一  被告会社に対し

判示各所為 各法人税法一五九条一項、二項、一六四条一項

併合罪の加重 刑法四五条前段、四八条二項

主刑 罰金二五〇〇万円

二  被告人祖母井に対し

判示各所為 各刑法六〇条、法人税法一五九条一項

刑種の選択 各懲役刑を選択

併合罪の加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

主刑 懲役一年

刑の執行猶予 刑法二五条一項(三年間猶予)

三  被告人浦岡に対し

判示各所為 各刑法六〇条、法人税法一五九条一項

刑種の選択 各懲役刑を選択

併合罪の加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

主刑 懲役八月

刑の執行猶予 刑法二五条一項(三年間猶予)

(量刑の事情)

本件は、被告会社の代表取締役である祖母井が、被告人浦岡と共謀して、被告会社の法人税を不正に免れようと企て、架空仕入を計上したり、不動産の売却益を圧縮するといった不正な方法により、昭和六二年一二月期及び昭和六三年一二月期の法人税合計九五三六万円余を不当に免れたという事案であるところ、そのほ脱税額は右のとおり高額であり、ほ脱率も昭和六二年一二月期においては約九〇パーセント、昭和六三年一二月期においては一〇〇パーセントと高率であること、犯行態様は、被告人浦岡が代表者になっていた実体のない会社を利用して架空工事の費用を計上したり、これをダミーとして介在させ不動産売却益を圧縮したものであるが、これを偽装するため、架空の工事代金の領収証を発行したり、右会社の預金口座を開設し、同口座に不動産の売却代金や工事代金を振り込んだように装ったり、秘匿した利益を仮名預金により隠匿するなどその手口は巧妙かつ悪質であること、犯行の動機も、単に高額の税金の支払を免れることによっていわゆる裏金を貯えようとしたもので、自己中心的で酌量の余地がないこと、被告人祖母井は本件で主導的役割を果たしたもので、また、本件発覚後、被告人浦岡を逃走させ、その逃走資金として多額の現金を同被告人に渡すなどしていること、被告人浦岡も安易に本件犯行に加担し、これにより多額の報酬を得ていることなどに徴すると、被告人らの刑事責任はいずれも重いといわなければならない。

しかし他方、本件摘発後被告会社は関係年度の法人税の修正申告をしたうえ、ほ脱した法人税の本税、重加算税、延滞税等を既に全額納付していること、被告人祖母井及び同浦岡の両名とも当公判廷において本件犯行を認め反省の態度を示していること、被告人祖母井は前科前歴がなく、被告人浦岡も交通事犯を除き前科がないこと、その他被告人祖母井のこれまでの経歴や被告会社における地位・立場など被告人らに有利に斟酌すべき事情も認められる。

そこで、これら諸般の事情を総合考慮し、この種事犯に対する量刑の一般的実情をも勘案したうえ前示のとおり刑を量定し、被告人祖母井及び同浦岡については刑の執行を猶予するのが相当であると判断した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤学 裁判官 河合健司 裁判官 栗原正史)

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